国際連合食糧農業機関は、2050年に想定される地球上の全人口の消費カロリーを満たすには食料の生産量を70%増やす必要があり、なかでも年間肉生産量が4億7000万トンに達するためには2億トン以上増加する必要があると予想しています。また、家畜を育てて屠殺し食料にすることは、地球温暖化や土壌劣化、大気・水質の汚染など世界の環境問題の主要な原因になっていると主張しています。
一方、世界的に先進国を中心とした健康志向、食料不足やフードロスに対する問題意識の高まりがあります。その根底には、食や調理の本質的な価値を問う動きである「サスティナブル・フード・ムーブメント(持続可能な食を確保するための運動)」があると考えられます。
こういった背景のもと、細胞を培養して食肉を創出しようとする試みが始まっています。2000年代に入り、再生医療研究における培養技術の進歩によって培養細胞を用いて食肉を作製するという研究が始まりました。現在では、世界各国で細胞を培養し、ティシュエンジニアリング(組織工学)の技術を応用して従来の食品と同等のものを作製しようとする動きがトレンドになりつつあります。本邦でも、動物性たんぱく質の供給源である食料を対象に、新しい食品産業を創出する研究に官民からの支援が始まっています。
一方で、実際に食するに足る培養食肉を作り出すためには、これまでの細胞培養技術に加え、栄養価、味、価格を意識した新たな技術革新が必要であり、安全面を含む培養食肉の評価基準も科学的根拠に基づいて検討していく必要があります。
そこで、培養食肉の作製に取り組んでいるあるいは関心のある研究者が集い、培養食肉関連技術の進歩と安全安心そして美味しい培養食肉を早期に食卓に届けることを目的として、2019年6月に培養食料研究会を設立しました。本研究会は、各研究機関で行われている培養食料研究に関する最新の研究成果の科学的体系化を行い、相互の連携・融合を図ることでこの分野の研究を加速させ、新たな食品の栄養面と安全性に関する科学的根拠を提供します。これらを推進することで、将来的な食料不足の問題を解決し、持続可能な地球環境に資する食の共創に貢献することを目指します。